『ガラスの家』は、パリの中心部サン・ジェルマン・デュプレ教会の近く、中庭と庭園に挟まれた18世紀の伝統的な邸宅の3階部分を残して、その下の2層に新たな3層の住居を挿入した都市型の住宅。一方、『波板の家』は、愛知県の西に位置する愛西市の市街化調整区域の茫漠とした環境に建てられた一戸建ての非都市型の住宅。周辺環境、さまざまな状況や条件、そして時代までもまったく異なる二つの住宅であるが、そこに何かしらの類似性や関連性はあるのだろうか?

まずは『波板の家』の概略を以下に述べていく。計画された建物は、鉄骨造3階建ての3列3行の9スクエアグリッド、約8.2mキューブのきわめてシンプルな純粋幾何学形態をメインヴォリュームとする。この厳格な形態を成立させる構造は、井桁状に組んだH形鋼の柱梁や土台、ブレースと、垂直荷重を負担する中央と四隅の8本の細い鋼管の柱で構成され、その鉄骨フレームがシンプルで接合部レスに見えるような柱脚ディテールで、コンクリートの基壇の上に軽やかに載せられた形式である。そのヴォリュームを既存の母屋や庭との関係に配慮した上で、絶対軸である南北軸に合わせて配置し、前面道路との余白にエントランスやポーチ、基壇から拡張されたアプローチ階段や駐車スペースをつくり、敷地境界との余白にいくつかの新たな庭を構築した建築だ。


この敷地周辺を広域に俯瞰してもすぐにわかるように、建造物それぞれがバラバラでそれらの形成秩序を把握することはできないし、目線の高さで周囲を見渡しても、隣地との形態の関係性を直接的にもつことはできない。このような目に見える規範がなく、形態を生み出す拠り所となる外的要因が希薄な場所において、造形を思考する上で普遍的な幾何学の「かたち」やグリッドの「図式」、方位の「絶対軸」を用いて計画をまとめたのは、建築表現の「恣意性」を極力排除した秩序の枠組みの中で、客観的な「理性」を保つ必要性を強く感じたからに他ならない。

平面計画もグリッドに沿ったシンプルな構成である。1、2階はひとつながりの空間で、前面道路のある西側の閉じた3グリッドに、住宅の機能を担保する「コア」として、階段/廊下/PS/水廻りを配置し、東と南北に開いた残りの6グリッドに、居住スペースとしての「公」的空間と「私」的空間を配置するゾーニングとした。リビングダイニングなどの「公」的空間は4グリッド、平面として5.4m×5.4mの大きさをもち、断面としても雁行した形状で5.4mの高さの空間だ。
つまり、静的な8.2mキューブの中に、雁行した5.4mキューブの「公」的空間が動的に貫入され、残りの空間をプライベートルームなどの「私」的空間としている。3階はコアが縮小されるために、プランが旋回して南に大きく開いた独立した構成となっている。