建築の本をつくるしごと

建築について考える

建築について考える

>レビュー

>石神井の家

設計:丸山弾(丸山弾建築設計事務所)

若原一貴(建築家・若原アトリエ/日本大学芸術学部 非常勤講師)

石神井の家-1 石神井の家-2 石神井の家-3 石神井の家-4 石神井の家-5
2月の東京に降った雪は、その後に続いた寒さで溶けることなく町中のあちこちに残っていた。そんな普段とは少し違った武蔵野の風景の中を駅から15分ほど歩いて古い住宅街の角を曲がると少し先に白く輝く凛とした佇まいの家が現れた。丸山弾さん設計「石神井の家」(2016年竣工)である。今回、丸山さんの実作を初めて拝見するが彼の仕事は過去に誌面等で拝見していて、その端正なディテールがとても印象に残っている。

丸山さんとクライアントご夫妻に挨拶を済ませて早速、家の中をご案内いただいた。一階は主寝室や水回り、物干しテラスなどがコンパクトに納められている。二階へ上がるとそこは明るく広がりのある大きな空間があり北側に使いやすそうなキッチンが、中央には大きなダイニングテーブルが置かれていた。





ひと通り見学した後、ダイニングの椅子に腰を落ち着け、図面を拝見しながらこの家の空間の印象とつなぎ合わせてみた。平面は1.8m角が縦横に四つ並ぶ正方形プラン。四隅を設備や収納、階段室とし二階の主室は四方に広がりを持つ中心性の強い空間がつくられている。
ここで少し不思議に思うところが出てきた。この明快な構成が生み出す建築的な強さや求心性といったものを丸山さんがところどころ、意図的に弱めようとしているように思われたからである。二階の四隅において南側の予備室を箱として閉じたかたちにすれば“四隅にコアを持つ住宅”になるが、そうはしていないことである。





同じ正方形プランを持つ住宅として、菊竹清訓氏設計の住宅「スカイハウス」がある。四枚のコンクリート板が床と屋根を支えるだけの単純な構成である。しかし室内の天井の中央部分を少しだけ持ち上げて曲面の天井とすることで、さりげなく「家としての豊かさ」を獲得している。
丸山さんに四隅にコアを完結させなかったことについて伺うと、シンメトリカルかつシンボル性を強調することで建築家の作品然となることを避けようとしているという。静止的な空間よりも流動的な建築を目指していると。住む人に寄り添い、日々暮らしを包むものであることを、慎ましやかに遂行する。住宅全体に流れる空気はとても優しい。

一方で、体感的にはそれほど意識されることはないが、軒裏と室内天井を揃えて“フラットな面”とすることで内外がつながり伸びやかさをつくり出している。さらに、居間の天井部分を一段持ち上げて高さを変えることで場に変化を与えている。軒裏と室内天井を揃えることは、普通の業ではない。こういったところに丸山さんの相反する志向性が同居していて興味深い。

いまはまだ竣工して日が浅いが、5年10年もすれば、この“フラットな面の真ん中に孔の空いた”この家の特徴的な構図が顕著に浮かび上がってくるに違いない。

                               若原一貴
                 *写真・図版提供:丸山弾建築設計事務所
若原一貴

若原一貴(建築家・若原アトリエ/日本大学芸術学部 非常勤講師)

1971年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業。横河設計工房を経て、2000年若原アトリエ設立。2008年「四季の森デンタルクリニック」にて第11回木材活用コンクール部門賞、2009年「小日向の仕事場」にて第30回INAXデザインコンテスト入賞、2012年『南沢の小住宅』でhope&homeアワード受賞。
丸山弾

丸山弾(建築家/丸山弾建築設計事務所主宰/京都造形芸術大学大学院 非常勤講師)

1975   東京都生まれ
1998   成蹊大学卒
2003-07  堀部安嗣建築設計事務所 
2007   丸山弾建築設計事務所 設立
2007-    京都造形芸術大学大学院 非常勤講師
石神井の家
所在地 :東京都練馬区 
規模  :地上2階・木造
敷地面積:115.39㎡ 
建築面積:51.84㎡
延床面積:103.68㎡ 
竣工  :2016年11月
構造  :mono 森永信行
施工  :滝新