丸山さんとクライアントご夫妻に挨拶を済ませて早速、家の中をご案内いただいた。一階は主寝室や水回り、物干しテラスなどがコンパクトに納められている。二階へ上がるとそこは明るく広がりのある大きな空間があり北側に使いやすそうなキッチンが、中央には大きなダイニングテーブルが置かれていた。


ひと通り見学した後、ダイニングの椅子に腰を落ち着け、図面を拝見しながらこの家の空間の印象とつなぎ合わせてみた。平面は1.8m角が縦横に四つ並ぶ正方形プラン。四隅を設備や収納、階段室とし二階の主室は四方に広がりを持つ中心性の強い空間がつくられている。
ここで少し不思議に思うところが出てきた。この明快な構成が生み出す建築的な強さや求心性といったものを丸山さんがところどころ、意図的に弱めようとしているように思われたからである。二階の四隅において南側の予備室を箱として閉じたかたちにすれば“四隅にコアを持つ住宅”になるが、そうはしていないことである。


同じ正方形プランを持つ住宅として、菊竹清訓氏設計の住宅「スカイハウス」がある。四枚のコンクリート板が床と屋根を支えるだけの単純な構成である。しかし室内の天井の中央部分を少しだけ持ち上げて曲面の天井とすることで、さりげなく「家としての豊かさ」を獲得している。
丸山さんに四隅にコアを完結させなかったことについて伺うと、シンメトリカルかつシンボル性を強調することで建築家の作品然となることを避けようとしているという。静止的な空間よりも流動的な建築を目指していると。住む人に寄り添い、日々暮らしを包むものであることを、慎ましやかに遂行する。住宅全体に流れる空気はとても優しい。
一方で、体感的にはそれほど意識されることはないが、軒裏と室内天井を揃えて“フラットな面”とすることで内外がつながり伸びやかさをつくり出している。さらに、居間の天井部分を一段持ち上げて高さを変えることで場に変化を与えている。軒裏と室内天井を揃えることは、普通の業ではない。こういったところに丸山さんの相反する志向性が同居していて興味深い。
いまはまだ竣工して日が浅いが、5年10年もすれば、この“フラットな面の真ん中に孔の空いた”この家の特徴的な構図が顕著に浮かび上がってくるに違いない。
若原一貴
*写真・図版提供:丸山弾建築設計事務所